2022.09.29
転倒予防のためにすぐできること。介護のプロが教える高齢者転倒の原因と対策
高齢のお母様やお父様が、つまずいたり転びそうになったりする場面が増えると、「そろそろ介護のことを考えておいた方がいいのかもしれない」と不安になりますよね。
高齢者の転倒は骨折などの大けがにつながりやすく、入院がきっかけとなって認知症を発症したり、進行を早めたりするリスクがあるといわれています。
ご両親にいつまでも元気に過ごしていただくためには、「転倒予防」がとても大事です。
ご家庭でできる転倒予防のポイントは以下の5つになります。
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・つまずきやすいポイントをみつけて改善する
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・声かけなどで注意を促す
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・無理なく体を動かす習慣を作る
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・バランスのよい食事を心がける
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・生活リズムを整える
本記事では、家庭でできる転倒予防策に加え、高齢者にとって転倒予防が必要な理由と、転倒を引き起こしてしまう原因などを解説します。
転倒が高齢者にもたらす影響とは?高齢者の転倒予防が必要な理由
そもそも、なぜ高齢者の転倒を予防することが大切なのでしょうか。
日常生活に影響するような骨折が起こる
高齢の方がつまずくなどしてバランスを崩してしまうと、若い頃のように手で体を支えることができず、尻もちをついてしまうことがあります。
その尻もちの衝撃で骨折しやすいのが、「大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)」と呼ばれる部分です。
大腿骨頚部は太もものつけ根あたりのくびれて細くなっている部分を指します。
この部分は骨粗しょう症が進むことなどで、もろくなっているため、そもそも高齢者は骨折しやすいといわれています。
骨折すると、痛みや腫れを伴い、ほとんどの場合、歩くだけでなく立つことも困難になってしまいます。
治療には手術が必要になり、入院も1~2カ月間と長期にわたってしまうことがあります。
長期入院が、さらなる体調不良や病気を誘発する可能性がある
活動量の低下が心身にさまざまな影響をおよぼす
入院中は安静にして過ごすため、ベッドにいる時間が長くなります。
活動量が落ちることで、食事の量が減り、体力が落ちてしまう方も多くなります。
体力が低下すると、「筋肉がやせおとろえる」「骨がもろくなる」など、身体のさまざまな部分に影響がでてしまいます。
さらに、気分的な落ち込みもひどくなり、精神的な機能低下まで引き起こしてしまうことがあります。
こうした状態になることを「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」といいます。
気力、体力を取り戻していただくためにはリハビリが必要で、ご家族の支えはもちろん、ご本人には心身共に大きな負担がかかります。
入院をきっかけに認知症を発症する例も
入院中は単に活動量が減るだけでなく、家族や友人との接触が少なくなり、買い物に行ったり趣味を楽しむ時間がなくなったりと、外部からの刺激も減ってしまいます。
そうした環境の変化は、心身に大きなストレスを与えます。
ストレス状態が長く続くことで、認知症を発症したり、もの忘れ程度だった症状が進んでしまったりする可能性があるといわれています。
ご両親が、転倒をきっかけにこのような大変な状況になってしまわれないためには、どういったことに気をつければよいのでしょうか。
次の章では、高齢者の「転倒の原因」や、「転倒につながるサイン」について解説します。
ふらつきがサイン!転倒の原因は、気づかぬうちに進む「筋力低下」
65歳以上の高齢者の転倒事故は、なんと半数近くが「自宅」で起こっている(※1)という調査結果があります。
「え?自宅なの?」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。
住み慣れたはずのわが家で、転倒事故が起こってしまう原因は何なのでしょうか。
※1 消費者庁ニュースリリース「10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう!」より
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_040/assets/consumer_safety_cms204_201008_01.pdf
気づかぬうちに進む筋力の低下が転倒の原因に
今までつまずいたり転んだりしたことのなかった場所で転倒してしまう原因、それは筋力の低下です。
高齢者の場合、お元気なようにみえても、筋力やバランス力は日々低下していくものです。
その結果、
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・カーペットの端のめくれにつまずく
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・畳のへりや、部屋の敷居などにつまずく
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・自分で自分のスリッパを踏んで転ぶ
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・スリッパが脱げて転ぶ
といったことが、起こってしまいます。
筋力の低下は、ご本人も気づかないくらい少しずつ進みます。
そのため、ご本人は普通に歩いているつもりでも、実際は思っているほど足があがっておらず、つまずき、転倒してしまうのです。
筋力やバランス力の衰えは「ふらつき」にあらわれる
筋力やバランス力が低下してしまってくると、「ふらつき」が起こるようになります。 たとえば、
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・イスから立ちあがったときにふらつく
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・何かにつかまらないと立ちあがるのが難しい
といった具合です。
このような様子がみられるようになったら、筋力やバランス力が低下しているサイン。
転倒対策を始めていただくタイミングです。
では、具体的に、どういった転倒対策を行えばよいのでしょうか。
できることから始めよう。家庭でできる、5つの転倒予防対策
ご両親にふらつきがみられるようになったら、ぜひ次の5つの対策を参考に、無理なくできることから始めてみてください。
転倒予防策1 つまずきやすいポイントをみつけて改善する
家の中には、高齢者がつまずいたり足を滑らせたりするきっかけになる物や場所が、意外と多くあります。
「もしかすると、ここは危ないかも」というポイントをみつけたら、早めに改善して転倒を防ぎたいですね。
例えば、次のようなことが転倒を予防することになります。
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・カーペットに滑り止めマットを敷く、またはカーペットを外す
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・スリッパをルームシューズなどに替える、またはスリッパを履かないようにする
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・床に物を置かない
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・室内ドアの下部など段差になっている箇所があれば、スロープをつけるなどして段差を解消する
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・階段や段差のあるところ、よく使う通路に手すりをつける
段差をなくしたり、手すりをつけたりといった住宅改修は、ご本人の身体状況によっては介護保険制度が使えることもあります。
改修前に、市役所の介護保険課や地域包括支援センターに相談することをおすすめします。
転倒予防策2 声かけなどで注意を促す
つまずかないよう注意して行動することは大切ですが、高齢の方が家の中のちょっとした段差や滑りやすい箇所を一つひとつ覚えておくのは大変です。
そこで、つまずきそうなところでは、ご家族の方が、
「そこに段差があるから気をつけてね」
「手すりにつかまってね」
など声をかけ、ご両親へ注意を促すことが転倒を予防することにつながります。
また、屋外など手すりがない場所や、ふだん歩かないような場所では、手を引いたり体を支えたりといったサポートをすることも、転倒予防に役立ちます。
転倒予防策3 無理なく体を動かす習慣を作る
散歩や体操など、体を動かす習慣をつけて、筋力やバランス力をつけることはとても大切です。
そうはいっても、運動を続けることは高齢の方でなくとも、難しいですよね。
例えば、ご家族が「一緒にやろう」と声かけをすると、「みんながやるなら、私もやろうかしら」と前向きになってくださることがあります。
また、がんばっていることが目にみえるとモチベーションがあがるので、体操をしたらカレンダーにシールを貼るといった工夫はいかがでしょうか。
ぜひご本人が無理なく体を動かせる環境を、作って差し上げてください。
転倒予防策4 バランスのよい食事を心がける
体操などで筋力をつけるのと同じくらい大事なのが、栄養をとること。
たんぱく質や炭水化物、ビタミン類など、バランスよく摂取することが大切です。
ただ、高齢者は食が細くなることも多く「食べたくても食べられない…」と、おっしゃる場合もあります。
そこで、少量でも栄養がとれるよう高カロリーな食材、例えば鶏肉より牛肉を使うなどの工夫をしていただくのも一つの方法です。
またバランス栄養食やサプリメントなどで、足りない栄養素を補うのもおすすめです。
転倒予防策5 生活リズムを整える
運動や食事だけでなく、睡眠、休養をとりながら、生活のリズムを整えることも有効です。
朝寝坊や夜ふかしは生活リズムが崩れるきっかけになりがちです。
日中はできるだけ活動的に過ごし、夜は疲れてぐっすり眠る、といった生活のリズムが作れるとよいですね。
ただし、無理は禁物です。
「今日はしんどいな」とおっしゃるときは、家の中でゆっくり過ごしていただき、体調をみながら散歩などにお連れしてはいかがでしょう。
では、介護の専門家がいるデイサービス施設では、どのような転倒予防策を行っているのでしょうか。
「身体の改善は、心の改善にも」~転倒予防にも配慮したデイサービスソラスト七里での取り組み紹介~
デイサービス(※2)ソラスト七里の取り組みを、ご利用者様やご家族様の声とともに、紹介します。
※2 通所介護(デイサービス)とは、介護や支援が必要なご利用者が、自立して日常生活を送ることができるよう、心身の機能を維持したり、生活したりすることをサポートする介護サービスです。
筋力アップを目指し、楽しんで取り組めるプログラムを提供
体操は体に負担がかかりますし、「つらいな、しんどいな」というイメージをお持ちの方も多くいらっしゃいます。
そのため、前向きな気持ちで体操に取り組んでいただけるよう、お一人おひとりとコミュニケーションをとることを心がけています。
最初からがんばりすぎないことも、大切です。
簡単な体操からスタートし徐々に負荷をあげる
まずは、簡単な体操からスタートしていただきます。
【簡単な体操の例】
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・片足立ちをしてバランスをとる
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・しゃがんで立つ、を繰り返す
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・つま先立ちをする、 など。
誰でも簡単にできる内容のものを、10~15分程度行います。
簡単な体操でも、続けることで少しずつ筋力がついていきます。
筋力がつくと、「いつもより長い距離が歩けるようになった」「トイレまで楽にいけるようになった」など、効果を実感していただけるようになり、さらなるやる気につながっていきます。
少し効果を実感していただけるようになってきたら、運動の時間を長くしたり、トレーニングマシンを使ったり、さらに筋力がつくよう負荷をあげていきます。
管理栄養士の指導のもと、筋力がつきやすいメニューを相談するなど、栄養面からもサポートしています。
楽しんで続けていただくための工夫をする
転倒予防のための体操は、続けていただくことが何よりも重要です。
続けていただくためには、「楽しく取り組めるかどうか」がポイント。そのための取り組みの一つが、グループごとに行う体操です。
同レベルの体操が必要な方に集まっていただきトレーニングを行うと、「一緒にがんばろう」という連帯感が生まれます。
「一緒にやりましょう」「みんなでやりましょう」というお声がけは、やる気につながっているようです。
また、お一人ずつカードを作って体操をしたら印をつけるといった工夫もしています。
一方で、体調があまりよくなさそうだと感じたときは、世間話をしながらのんびりと取り組んでいただく日もあります。
「無理をせず、ご本人のペースにあわせて楽しく続けていただく」ことを大切にしています。
身体の改善が心の改善につながる
このような取り組みを通じて、ご利用者様やご家族様からは、以下のようなお声をいただいています。
ご利用者様の声
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・家の中で、つまずいたり転んだりすることが減りました。
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・車いすに頼る生活をしていたが、訓練を重ねることで立ちあがったり少し歩いたりできるようになりました。
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・足が弱って、もう歩けないと思っていたが、手すりを使って自分で歩けるようになりました。
ご家族様の声
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・段差でつまずくことが減り、家でも自ら動くなど、活動的になりました。
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・つまずきが減ったことで部屋と部屋の移動もスムーズになり、家で暮らすことに自信がついたようです。
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・できることが増えたことで性格が明るくなり、家でのコミュニケーションも増えました。
身体の改善は心の改善にもつながります。
人生に対しての前向きな気持ちを、いつまでも持ち続けていただけるような介護を心がけています。
最後に
転倒予防は、ただ骨折やケガを防ぐだけではありません。
ご両親が病院で寝たきりになってしまったり、認知症になってしまったりすることを予防することにもつながるのです。
そして、それは
これからの人生を意欲的に取り組んでいける可能性が広がるということ
最期の瞬間まで自分らしく過ごせるということ
生きがいを持って人生を全うすることができるということ
にもつながります。
ちょっとした「つまずき」「ふらつき」が気になったら、ぜひここでご紹介した「5つの対策」を、ご家庭でも取り入れて、大切なご両親の転倒を予防して差し上げてくださいね。
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