2022.09.29

「科学的介護」でこれからの介護のあり方が変わる!?その言葉の意味と4つのメリットをわかりやすくご紹介

「科学的介護」でこれからの介護のあり方が変わる!?その言葉の意味と4つのメリットをわかりやすくご紹介

今、介護の世界で注目が高まっている「科学的介護」という言葉をご存じですか?
科学的介護とは、厚生労働省が推進する「科学的裏付けに基づく介護」のことで、2021年度から本運用が始まっています。
科学的介護がこれまでの介護と大きく異なる点は、「客観的な数字で介護サービスの効果を測定できるようになる」というところです。
これにより、介護される側にも、する側にも大きなメリットをもたらすことが期待されています。

本記事では、「これからの介護のあり方が変わるかも!?」といわれている科学的介護について、介護初心者の方にもわかりやすく解説します。

介護現場を大きく変える!?科学的介護とは

介護のあり方を変えるかもしれない、「科学的介護」とは

科学的介護とは、要介護者の自立支援や重度化防止につながることなどが、数字データなどの客観的なエビデンスによって認められた介護サービスのことです。
厚生労働省では、「科学的に自立支援等の効果が裏付けられた介護サービス」とも説明しています。
ここでは、科学的介護が取り入れられるようになった理由と、これまでの介護との違いについてご説明します。

「科学的介護」の運用が始まったワケ

医療現場で行われている「根拠に基づいた治療」

「介護の現場」と、よく対比されるのが「医療の現場」です。
医療の現場では、エビデンスに基づいた医療のことをEBM(Evidence Based Medicine)といいます。

EBMが採用されている医療の現場では、研究や治療の積み重ねにより、「この疾患であればこの薬を飲ませて、このような体調管理法を徹底すれば、回復する」といった根拠に基づいて医療が提供されています。
そのため、医師は個人的な経験や勘に頼ることなく、EBMをもとに患者を治療することができています。

「根拠に基づいた介護」を提供するために「科学的介護」をスタート

一方、介護の現場では、介護サービスの効果について、ハッキリとした根拠を示すことができない点が問題視されていました。
例えば、「食事介助」や「排せつ介助」など、提供したサービスの効果については、具体的な数値で説明することはできません。

「食事介助をしている」と言うことはできても、「食事介助が、利用者の身体状況や介護状態にどのような効果を与えているのか(与えていないのか)」がわからない状態にありました。
言い換えれば、「今、提供している介護サービスが、利用者にとって良いのか悪いのか、正しく判断できない」ということにつながります。

こうした問題を解決するために、介護現場でもエビデンスに基づいて介護を行う「科学的介護」の運用が始まったのです。

「今までの介護」と「科学的介護」との違い

例えば、デイサービスなどで行われる「近くの公園までの10分の散歩」。
その効果は?と聞かれたとしても、これまでの介護では、「日々のお楽しみや満足度の向上」としか言えませんでした。
しかし科学的介護を取り入れることで、「10分の散歩を○カ月継続することで、筋力が◎%アップし、歩行速度が●%速くなる」と、具体的に数字を用いて示せるようになるのです。(参考:図表1)

これまで、介護サービスの効果については、介護する人の経験値や主観で判断せざるを得ませんでしたが、科学的介護では、客観的な数字で介護サービスの効果を測定できるようになる、という点が、これまでの介護との大きな違いです。

図表1 科学的介護のサービスの具体化イメージ

では、科学的介護を取り入れることは、どのようなメリットをもたらすのでしょうか。

科学的介護がもたらす4つのメリット

科学的介護の導入で得られるメリットとは

科学的介護には、次の4つのメリットがあります。

メリット1 介護の質が向上する

エビデンスに基づいた介護を実践することによって、介護を受ける人が、より自分に合ったサービスを選ぶことができるようになります。
介護保険制度の理念である「高齢者の尊厳を保持し、自立した日常生活を支援すること」を、より実現することにもなります。

メリット2 介護の質の標準化が進む

エビデンスに基づいた介護を実践することによって、どの職員であっても同じ効果を引き出せるようになります。
介護職員の経験の有無にかかわらず、適切な介護サービスを提供することができるため、介護の質の標準化が進むことも期待されます。

メリット3 介護サービスの生産性が向上する

ご利用者様にとって、どのサービスが合っているのかがわかりやすくなるため、介護職員が提供サービスを考える時間なども短くなり、生産性が向上する可能性があります。
また、それにより、介護職員の負担が軽減することも期待されています。

メリット4 介護サービスに対する理解度が高まる

介護する人の主観ではなく、客観的な数字などによって介護サービスの効果を示すことができるため、ご利用者様やご家族がサービスの意義や意味を理解しやすくなります。
例えば、「少しきつくて、イヤだな」と思っていた運動も、その効果が具体的に示されることで、やる気をもって取り組んでいただくことにつながるかもしれません。

このようにメリットの多い科学的介護ですが、実際に行うために重要になってくるのは、「エビデンス」です。
では、エビデンスはどのようにして収集するのでしょうか。

科学的介護に必要な「エビデンス」を集める方法とは?

科学的介護のエビデンスはどのように収集される?

科学的介護を行う上で欠かせないのが、「エビデンス」です。
エビデンスとは、「どのような状態の人に、どのようなケアを提供すれば、機能の維持・向上につながるのか」といったデータです。

これらのデータを集めるために、厚生労働省では「CHASE」と「VISIT」というデータベースをつくりました。
データの収集は2016年からスタート、2021年からはシステムを統一し、科学的介護の本運用へと移行しています。

利用者に関する情報を蓄積する「CHASE」

「CHASE」は、利用者のADL(日常生活動作:食事や入浴など)や栄養、口腔・嚥下状態、認知症状、ケアの内容などに関するデータを収集するシステムです。

利用者、一人ひとりの情報を介護事業者が入力し、厚生労働省に提出します。

リハビリに関する情報を蓄積する「VISIT」

「VISIT」は、リハビリテーションの質の評価に関するデータを収集するシステムです。
リハビリの計画書やリハビリのプロセスなどの情報をはじめ、利用者の心身機能が「自立」「一部介助」「全介助」のどれに当てはまるかといった情報を、通所施設や訪問リハビリテーションが提供しています。

2021年度から「科学的介護情報システム(LIFE)」に統一

2021年度、厚生労働省はそれまで運用していた「CHASE」と「VISIT」を一体的に運用していくとして、名称も「科学的介護情報システム(LIFE)」に統一しました。

介護事業者が、利用者の状態やケアの計画・内容などのデータをLIFEに入力すると、収集されたデータが厚生労働省のシステムで分析され、その結果が介護事業者側にフィードバックされます。
フィードバックされた内容は、事業者が「提供していたケアが適正だったかどうか」を判断する材料となります。
また、良い結果が出ていなければ、リハビリ計画を見直すなどの改善も検討しやすくなります。

このように、科学的介護では「計画→実行→評価→改善」というPDCAサイクルを回すことにより、より高い成果を出すことが期待できるのです。(参考:図表2)

図表2 PDCAサイクルの推進(イメージ)

家庭でもできる科学的介護

科学的介護はご家庭でも

科学的介護といっても、難しいことを行う必要はありません。
ここでは、さまざまな調査結果をご紹介しながら、ご家庭で取り組める科学的介護の例をあげます。

エネルギーとたんぱく質の摂取をしっかりと!

ある調査(※1)では、
「低栄養状態にある高齢者(BMI 20未満 ※2)が、食事によって適正なエネルギーとたんぱく質を摂取することにより、さまざまな改善がみられた」
という結果が報告されています。

高齢者にとって、食事によって必要なエネルギーやたんぱく質などの栄養素をきちんと摂取することは、健康を保ち、身体機能を維持するために、欠かせないということですね。

以下は、1日に必要なエネルギー量が、1,800kcal前後の方(70代以上の女性や、1日のうち座っていることがほとんどという70代以上の男性)の1日の献立例です。
ご家庭でのお食事メニューの参考としてご覧ください。

1日の食事例

※農林水産省「シニア世代の健康な生活をサポート 食事バランスガイド(P7)」(※3)より

食が細くなって、たんぱく質やエネルギーの必要量を食事から摂取するのが難しい場合には、栄養補助食品を併用するのもおすすめです。

食事のポイントやアドバイスが掲載されているソラストオリジナル資料もご活用ください!

『今すぐできる!シニア世代の健康を守るお食事チェック&アドバイス(PDF)』 食事チェックシート

ムリのない範囲で「歩く」習慣づくりを

厚生労働省の資料(※4)によると、海外の文献では、「身体活動量と死亡率などとの関連から見た場合、『1日1万歩』歩くのが理想」とされているそうです。

これを日本人の歩数にすると、理想は1日平均で、男性9,200歩、女性8,300歩程度。
とはいえ、高齢者の方にとって、いきなりこの目標設定は、ハードルが高すぎるかもしれませんね。

まずは、スマートフォンなどを利用して、毎日何歩歩いたかを記録するところから始めてみてはいかがでしょうか。

※1 栄養改善マニュアル(改訂版)P15 栄養改善マニュアル(改訂版)P15
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1e.pdf

※2 BMI:[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値。肥満や低体重(やせ)の判定に用いられる
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-002.html

※3 「シニア世代の健康な生活をサポート 食事バランスガイド
https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/b_sizai/pdf/korei_all.pdf

※4 厚生労働省 身体活動・運動
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b2.html

最後に

「科学的介護」と聞くと、「データだけで管理される無機質な介護」というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

でも、科学的介護の目的は、効率化やデータ化だけではありません。
本当に目指すことは、その先にあります。

科学的介護によって、介護の現場が効率化されれば、介護従事者の時間と心に余裕が生まれます。
そうすれば、ご利用者様お一人おひとりにしっかりと向き合い、よりぬくもりのある介護をご提供できることにつながります。

最適なサービスを、時間をかけずに選択できるようになれば、その分、高齢者の健康寿命を少しでも延ばすことにつながるでしょう。

少子高齢化が加速する今、科学的介護に対する期待も、ますます高まっています。
科学的介護によって、「介護をする人もされる人も、幸せになれる」、そんな社会を目指していきたいものです。

「ソラストオンライン」2021年3月より出典
https://www.solasto.co.jp/company/solastoonline/pickupnews-8.html

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