2016年11月の未来投資会議で「できないことをお世話する"お世話型"の介護から、高齢者が自分でできるようになることを助ける"自立支援"に介護の軸足を置く」と提言されたことがきっかけで、「自立支援介護」が重視されるようになりました。
ご両親の介護をイメージしたとき、「お世話型」は何となくわかるけれど、「自立支援型」はよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、「自立支援介護とは何なのか」「なぜ自立支援介護が必要なのか」「家庭でできる4つの自立支援介護」についてご紹介します。
「お世話されるから、自分でできる」へ。自立支援介護の意味とは
介護保険では、「自立支援介護」を、以下のように定義しています。
【自立とは】
要介護者ができる限り自分の能力をいかして在宅生活を続けていくことです。
【自立支援とは】
その生活を要介護者が行うことができるように支援することです。
【自立支援介護とは】
本人にできることはできる限りやってもらい、できない部分は介助しながらできるように訓練をしていく介護のことです。
例えば入浴介助では、介護者がすべての介助を行いません。
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・着替えは要介護者にやってもらう
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・浴槽をまたぐことが難しい場合は介護者が介助しつつ、またげるようになるためのリハビリをする
このような考え方が、自立支援介護です。
ではなぜ今、すべてを介護者が行う「お世話型介護」ではなく、「自立支援介護」へ変わることが必要だといわれるのでしょうか。
ご家族の介護負担軽減にも。自立支援介護のメリットとは?
自立支援介護をしないとどうなるのか?
自立という言葉の中には、身体的自立・社会的自立・精神的自立の3つの意味があります。
この中で、介護の現場で特に重視されているのは身体的自立です。
身体的自立のために必要なのは、一人で日常生活を送ることができるだけの体力や筋力を保つこと。
もし、自立支援介護を行わず、体力や筋力が衰え活動量が低下すると、「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」におちいってしまうこともあります。
【廃用症候群とは】 生活不活発病ともいい、動かない状態が長く続くことにより、心身の機能が低下し、さらに動けなくなる状態になることをいいます。
つまり、自立支援介護を行わないことで、こうした病気を引き起こす可能性が高まってしまうのです。
自立支援介護にはどんなメリットがあるのか?
身体的自立ができるよう「自立支援介護」を行うと、高齢者ご自身ができることが増えていきます。
例えば、
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・車いすを使わなくてはいけなかったのが、少しの距離であれば歩けるようになった
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・手伝ってもらわなければ着替えられなかったのが、自分で着替えられるようになった
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・歩行や排せつが一人でもできるようになり、外出の機会が増えた
などです。
自分でできることが増えれば、高齢者ご自身の生活の質があがります。
介護度も改善されるため、介護者側の負担も減ることになります。
今までできなかったことができるようになることは、ご本人の自信につながります。
さらに、生きることへの自信や意欲にもつながり、他者とかかわったり(社会的自立)、物事を決めたり(精神的自立)といったことにも、前向きになっていきます。
自立支援介護により身体的な自立が実現することは、ご本人のこれからの生き方を明るく照らすことにもつながるでしょう。
お元気なうちから始めたい、家庭でできる4つの自立支援介護
自立支援介護といわれると、介護の専門家でないと難しいのでは…と思われたかもしれませんね。
でもご両親がまだお元気なあいだに、ご家庭でできることもあります。
家庭でできる、4つの自立支援介護について、ご紹介します。
家庭でできる自立支援介護1 飲み込む力を鍛える
いつまでも元気でいるためには、しっかり食事をとることが基本です。
そのためには、物を飲み込む「嚥下(えんげ)」機能を維持することが必要です。
おすすめしたいのは、「口腔嚥下体操」を行うことです。
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・口を大きく開けたりすぼめたりする
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・舌を出したり、ひっこめたりする
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・首や肩を回す
といったことを、テレビをみながら、お風呂に入りながらなど、いつでもいいので、生活の一部として行っていただけるとよいですね。
家庭でできる自立支援介護2 簡単な運動を行う
日常生活では、体中のさまざまな筋肉を使っています。
運動などで体を動かし、日常生活を行うための筋力をつけることはとても大切です。
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・手すりなどにつかまって、つま先立ちや片足立ちをする
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・近くの目的地(公園やお友だちの家など)まで散歩する
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・寝る前に簡単なストレッチをする
どんな運動でもよいので、ご両親が無理なく行えそうなことを選んで、おすすめしてみてください。
家庭でできる自立支援介護3 住宅の改修を行う
高齢になると転倒しやすくなります。転倒がきっかけで入院することになったり、そこから廃用症候群におちいってしまったりすることもあります。
そのため、自宅の中の危険な箇所をチェックし、転倒しないよう見直すことも大事なことです。
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・ご両親が段差につまずくことが増えたのであれば、段差をなくす
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・夜中のトイレまでの通路が暗くて危険だという場合は、自動点灯タイプの明かりをつける
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・廊下で転びそうになったのであれば、手すりをつける
高齢のご両親が住みやすいような住宅改修についても、ご家族でご相談してみてはいかがでしょうか。
家庭でできる自立支援介護4 訪問介護サービスを利用する
ご両親に支援や介護が必要になった場合、訪問介護サービスを利用するという方法もあります。
訪問介護とは、ホームヘルパーに自宅に来てもらい、入浴や食事、着替えの介助などを受けられるサービスです。
ご家族だけでの自立支援が難しいときなどは、相談してみるのもよいでしょう。
最後に
介護の形は、少しずつ変わってきました。
要介護状態になったからといって、必ずしも「何もできなくなる」わけではありません。
「できることは、する」「できることを増やす」というのが、今の自立支援型介護という考え方です。
一人ひとりの可能性は、年齢を重ねても必ず眠っているものです。
自立支援型介護に切り替えたことで、車椅子を利用していた方が、杖や介助によって歩行ができるようになったり、無表情だった方が周囲の方とコミュニケーションをとれるようになったりしたという事例もあります。
自立支援型介護を取り入れることで、高齢者ご自身の生活の質が向上します。
そのことでご両親に笑顔が増えたり、やる気や元気を取り戻してくださったりすれば、それはご家族にとっても幸せなことですね。
また、文中で触れた「廃用症候群(生活不活発病)」については、厚生労働省ホームページにも「生活不活発病チェックリスト」が掲載されていますので、そちらも合わせてご確認ください。
※生活不活発病チェックリストの一部です
記事協力:株式会社ポラリス代表取締役、医師 森剛士氏
「ソラストオンライン」2020年11月より出典
https://www.solasto.co.jp/company/solastoonline/pickupnews-6.html
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