認知症がある親が介護施設への入居を嫌がる――これは決して特別なことではなく、多くの家庭で起こり得る自然な反応です。親には「まだ家で生活できる」という思いがあり、住み慣れた場所を離れることに不安を感じるのは、当然の心理といえるでしょう。
こうした状況を穏やかに乗り越えるために大切なのは、ご家族が抱え込まないこと。第三者の力を借りながら、親が安心して過ごせる環境を少しずつ整えていくことが重要です。
そこで今回は、認知症がある親もご家族も安心して施設への入居を進められるよう、気持ちの向き合い方や言葉かけの工夫、準備の進め方について具体的にご紹介します。
親が施設入居を嫌がるのは「自然な反応」
認知症がある親が施設へ行きたがらないことは多く、すんなり入居するケースは稀かもしれません。しかし、施設への入居は、より安定した介護と、ご家族の負担軽減を実現するための役割分担でもあります。
はじめに、親が入居を拒否する理由と心の向き合い方について見ていきましょう。
住み慣れた環境から離れる不安が入居拒否に
住み慣れた家を離れて、知らない場所で暮らすことには大きな不安がともないます。これは認知症があるかどうかにかかわらず、誰にとっても自然な心理です。
長年住んできた家には、落ち着ける空気や動きやすさ、ご家族の存在といった「安心できる理由」があります。一方、知らない施設での生活を考えると、不安が先立ってしまうのです。
認知症がある場合は特に、環境の変化が混乱につながりやすく、「家から離れたくない」という気持ちが強くなります。入居拒否はわがままではなく、不安の表れなのだととらえていくことが大切です。
「困っていない」という本人の感覚がある
認知症がある親は、今の生活で「どれだけご家族が自分を支えているか」を自覚しにくいことがあります。ゆっくり説明して「わかった」と答えても、その内容自体を忘れてしまうことも珍しくありません。
また、「子どもの世話になるのは当たり前」「家は自分の居場所である」という親世代の価値観が、入居を拒む理由になるケースもあります。
子世帯は「嫌がる=わがまま」ととらえるのではなく、ご本人にとっては今のままで困っていないという感覚が背景にあるのを理解することが、説得の第一歩になります。
「施設の入居拒否の説得は難しいもの」無理せず第三者の力を借りよう
施設への入居を嫌がる親の説得をご家族だけで抱え込むと、疲れや焦りから、言葉が強くなりやすいものです。無理をせず、ケアマネジャーや専門職など第三者の力を上手に借りていきましょう。
ここでは、第三者の力を借りる理由と方法について解説します。
家族だけでの説得が難しい理由
認知症がある親の説得が難しい理由の一つには、親子という近しい関係だからこそ、感情がぶつかりやすいという点があります。言葉が強くなったために「お願い」や「提案」を、親が「命令された」と受け取り、拒否してしまう可能性もあります。
言葉がきつくなる背景にあるのは、介護をする側の疲労や不安、入居してもらわないと生活が回らないという切実な思いです。その結果、お互いに気持ちがすれ違ってしまい、きちんとした話し合いができないという事態になります。
こうした状態が続く中で、ご家族だけで入居を進めるのは難しいものです。第三者が間に入ることで、話が落ち着いて進みやすくなります。
ケアマネや施設スタッフなど第三者の協力を得る
施設入居を進める際には、第三者の専門職と日頃からかかわりをもって、その力を借りることが大きなカギになります。ここでいう第三者とは、例えば以下のような人たちです。
- ケアマネジャー
- 施設のスタッフ
- 主治医
- デイサービススタッフ(デイサービスに行っていれば)
かたくなになった親は、ご家族の言葉には反発しやすいですが、第三者から伝えられる言葉は、耳を傾ける傾向があります。「安心して生活できますよ」「大丈夫ですよ」といった、親が安心できる声かけを専門職に担ってもらうことで、ご本人の気持ちが動きやすくなります。
ご家族は、これらの専門職としっかりコミュニケーションをとり、親に合った声かけをしてもらうことが大切です。
家族にしかできないこともある
第三者の力を借りるのは大切ですが、ご家族にしかできない役割もあります。それは、「見捨てられるのでは…」という親の不安をやわらげることです。
住み慣れた家を離れるのは、認知症の有無にかかわらず、とても大きな決断です。「施設に行っても、私たちは家族だよ」「会いに行くからね」と具体的な言葉で伝えてあげることが、親にとっては何よりの安心につながります。
また、施設入居後もできるだけ面会をしたり、面会が難しいときは電話や手紙、オンライン面会でコミュニケーションをとることが大切です。親の気持ちを受け止め、話を聞く姿勢こそが、ご家族にしかできない大切な支えになります。
親との日常のコミュニケーションで気をつけたいこと
脅すような言い方はNG。安心感を伝えるのが第一歩
会話の中でつい「そんなことを言うなら施設に入れるよ」と言ってしまった経験はありませんか?
これは親にとって「施設=罰」という印象につながり、強い拒否や不安を生みやすい言葉です。大切なのは、親が「自分は大切にされている」と思える安心感です。「どう思う?」「一緒に考えようね」といった声かけが、穏やかな会話のきっかけになります。
また、説得では脅すような言葉を防ぐためにも、第三者に入ってもらい、親が落ち着いて話しやすくなる環境を整えるのがおすすめです。
感情がぶつかっても、関係は修復できる
親子だからこそ、ありのままの気持ちと感情がぶつかり合う場面があり、それは自然な関係です。「言い過ぎたな」「きつく言ってしまった…」と感じたときは、時間が経っていても「さっきはごめんね」と素直に伝えましょう。この一言が、信頼関係を保つ大切な支えになります。
認知症がある親でも、かけられた言葉のすべてを覚えていなくても、気持ちやご家族との関係の雰囲気はしっかりと伝わるものです。
また将来、施設入居の話をするときに、嫌な記憶を残したままでは、親もかたくなになってしまい強い拒否反応を示すこともあります。日々の「修復」の積み重ねこそが、安心して将来の話をできる関係の維持につながるのです。
限界を防ぐためにも「一人で・家族で抱え込まない」
認知症がある・なしにかかわらず、介護では心の余裕がないと、どれだけ親を思っていても優しく接することが難しくなります。無理を続けてしまうと誰にでも限界は訪れますし、中にはストレスが積もって思わぬ言動につながってしまうケースもあります。
だからこそ、施設入居の検討や、それを親に伝えることを「親子・家族内だけの課題にしないこと」が大切です。
ケアマネジャーや相談窓口、デイサービス、主治医など、頼れる先が複数あれば、気づいたときに相談ができます。「助けを借りる=介護の手を抜く」ではありません。ご家族が自分を守る意識は、結果的に認知症がある親を守ることにもつながります。
家族の心の余裕をつくるために
認知症がある親と向き合うには、介護するご家族自身の心の余裕がとても大切です。気持ちに余裕がないと、優しく話したいと思っていてもそれができず、かえって自分を追い詰めてしまうことになりかねません。
そうならないためにも、施設入居の説得だけでなく、介護自体も、ご家族だけで抱え込まないようにしましょう。ケアマネジャーやデイサービススタッフ、施設スタッフといった専門職と日頃から連絡を密にとっていれば、困った事態に直面したときにも具体的な相談がしやすくなります。
また、例えば、「認知症の人と家族の会」や「オレンジカフェ」など、同じ立場の人と話せる場は、大きな心の支えです。
専門職の人には話しにくい内容でも、話を聞いてもらえる場がほかにあれば、思いを吐き出して冷静さを取り戻せます。「こんな気持ちになるのは自分だけではない」とわかれば、それだけで少しでも気が楽になるはずです。
介護はご本人とご家族だけの問題に見えますが、実際には多くの人の力で支え合っていくものです。「自分を守る=親を守る」という意識を持ち、相談できる場所をたくさん持っておくことが、ご家族自身が介護で倒れないための大切なセーフティーネットになります。
■相談先を紹介している参考サイト
公益社団法人認知症の人と家族の会 | 認知症になっても安心して暮らせる社会へ
認知症に関する相談について |厚生労働省
家族支援と認知症カフェ(認知症介護情報ネットワーク)
入居拒否をやわらげる一歩|家の外に慣れる工夫
長く在宅で過ごしてきた親であれば、家の外へ出ること自体に抵抗を感じるケースがあります。まずはご家族以外の人や新しい環境に少しずつ慣れていく工夫が、入居拒否をやわらげる一歩になります。
ここでは、認知症がある親に、家の外に慣れてもらう工夫についてご紹介します。
デイサービスで顔なじみをつくる
家の中で過ごす時間が長い親にとって、突然の施設入居は非常に大きな環境変化です。そのため、少しでも変化をやわらげる工夫が必要になります。
例えば、まずは家の外で過ごす生活に慣れるために、週に数回のデイサービスの利用から始める方法があります。デイサービスのスタッフやほかのご利用者様と、少しずつ顔見知りになると、施設が「知らない場所」ではなく「知っている人がいる安心できる場所」へと感覚が変化します。
すでに通っているデイサービスや併設施設へ入居するケースでは、比較的スムーズに入居対応が進みやすいと考えられます。施設を利用する生活に慣れていくことの積み重ねが、入居のハードルを下げる一歩になるでしょう。
ショートステイや体験入居で不安をやわらげる
いきなり長期の入居を決めるのは、ご本人にとって大きな負担になりますし、ご家族も親がうまく過ごせるのか心配な面があります。そこで役立つのが、短期間だけ施設で過ごす「ショートステイ」や「体験入居」です。
実際に入居予定の施設の生活環境で過ごしてみて、スタッフやほかの入居者とも顔見知りになれば、「知らない場所」への不安がやわらぐでしょう。
ご本人に「ここに自分の居場所がある」と感じてもらえるよう、入居に向けた声かけやコミュニケーションをスタッフに依頼して、助けを借りることがカギになります。
嫌がっていた人も入居できている成功パターン
認知症がある親が「絶対に行きたくない」と強く入居を拒んでいても、実際には落ち着いて生活できるようになった例は多くあります。その成功のポイントは、入居前にご家族と施設との間で、十分な情報共有ができているかどうかにあります。
例えば、好きな飲み物やいつも読む雑誌、日々の習慣など、ご本人が「いつも通り」に過ごせるよう、生活環境に関する情報をあらかじめ共有し、さりげなく整えておくことが大切です。そうすることで、ご本人もほっとして、安心して心を開きやすくなります。
入居当初に「帰りたい」と訴えることがあっても、スタッフやほかの入居者との交流が増えるにつれ、少しずつ表情がやわらいでいくケースは珍しくありません。信頼関係が築かれれば、施設は「知らない場所」ではなく「安心して過ごせる居場所」に変わっていきます。
また、ご家族が面会や電話などを通じてつながりを保ち続けることは、ご本人の安心感を支える大きな力にもなります。もし、不安からくる問題行動があっても、多くの場合は時間とともに落ち着いていきます。焦らず、ゆっくりと見守っていきましょう。
施設に入ると認知症が悪化する?心の安定を支える家族関係づくり
環境の変化による不安から、一時的に認知症の症状が強まることはありますが、施設を「自分の居場所」として認識できるようになると、徐々に落ち着きを取り戻すケースがよく見られます。
ここでは、入居初期の家族のかかわり方についてご紹介します。
環境の変化による不安は、かかわり方でやわらぐ
認知症がある方が住み慣れた家から施設へ移ると、「トイレの位置が違う」「お風呂の雰囲気が違う」といった環境の変化によって、不安や混乱が生じやすく、落ち着かない状態が続く場合があります。
こうした物理的な変化は避けられませんが、一方で、「人とのかかわり」や「安心できる人間関係」などの社会的要素(ご本人と周囲のかかわり方)は意識的に対策を講じることができます。
入居後2週間から1か月ほどは、施設スタッフとの信頼関係の構築が最も重要な時期です。スタッフが穏やかに声をかけ続けたり、馴染みのスタッフが関係づくりを意識して対応することで、不安は徐々にやわらいでいきます。
施設に入っても、家族関係は続いていく
施設への入居による環境の変化は、親にとって大きなストレスとなり、認知症に悪影響を及ぼすこともあり得ます。しかし、ご本人の心の安定を支え、混乱をやわらげる最大の要素が、ご家族とのつながりです。
「お父さんを忘れていないよ」「お母さんを気にかけているよ」といったメッセージを、継続的に伝えることが大切です。面会や電話、オンライン面会などを通じて、できるかたちでご家族とのつながりを保ちましょう。
「施設に入ったから終わり」ではありません。親子としてのつながりは続いており、ご家族の存在は、ご本人にとって安心をもたらす大きな力になります。
ソラストなら安心も笑顔も“いつものまま”
グループホームは、少人数で家庭的な雰囲気の中、認知症ケアを受けながら生活できる施設です。認知症の方が安心して暮らせるよう、「家族とのつながり」や「地域とのかかわり」を大切にした運営が行われています。
ここでは、ソラストのグループホームの特徴と代表的な施設をご紹介します。
ソラストのグループホームの特徴
ソラストのグループホームでは、ご家族との面会や連絡の機会を大切にしながら、地域や医療機関と連携した介護サービスをご提供しています。「いつもの暮らしの延長線上」にあるような、アットホームで安心して過ごせる環境を整えています。
【主な特徴】
- ご家族様を招いた「家族会」など、コミュニケーションを大切にした取り組みを実施しています。
- 町内会行事への参加など、住み慣れた地域で人とのかかわりを保てるようサポートしています。
- 地域医療・かかりつけ医・協力医療機関との連携により、健康面でも長期的に安心できる体制を整えています。
グループホームソラストももか太子
ソラストが運営するグループホームソラストももか太子は、「暮らしの自由」と「専門的な支え」が両立しているのが大きな特徴の施設です。
【主な特徴】
- 日中は玄関の施錠をせず開放する取り組みをしています。閉じ込められる感覚がないため、ご利用者様はご自分の生活に自信を持って過ごせます。
- 日々の会話からご利用者様の思いをくみとり、例えば「徳島に行きたい」という言葉をきっかけに旅行を実現させるなど、実際の行動につなげています。強く心に残る体験は、認知症がある方の記憶にも残りやすいのです。
- 専門資格を持つスタッフが8割以上おり、専門性も高く安心感があります。
■施設詳細は以下のページをご覧ください。
グループホームソラストももか太子
第三者と連携しながら、穏やかに入居への道を
認知症がある親の「施設入居の拒否」は、多くの家庭で起こり得る自然な反応です。入居に向けた準備は、ご家族だけで抱え込まず、ケアマネジャーや施設スタッフなど第三者と連携して、専門家の手を借りて少しずつ進めることが成功のカギといえます。
施設入居は「親子関係の終わり」ではなく、「親という家族を支える形」が変わるだけです。入居の話し合いも入居してからも、「私たちは家族だよ」という思いを伝え続けましょう。
この記事の監修担当をご紹介します。
施設ケアマネジャー
上埜 美恵子
兵庫県出身。京都芸術短期大学を卒業後、転職を経て特別養護老人ホームに勤務し、認知症ケアに携わりました。
現在は、グループホームソラストももか太子でケアマネジャーとして従事する傍ら、兵庫県認知症介護指導者としても活動しています。
「ケアの良し悪しは、認知症がある方の表情を見ればわかる」という強い信念のもと、法定研修の講師なども務め、現場を何よりも大切にしています。
2023年にはクラウドファンディングを経て商業出版した絵本「いっしょにあるく」の作者としても活動中です。
【保有資格】 介護福祉士、介護支援専門員、兵庫県認知症介護指導者、DCM基礎ユーザー、認知症カフェモデレーター
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